今日は私の近作という事で、自分の考えていることを説明したいと思います。全部で8つほど、近年の作品、進行中のものをお見せします。
自分の興味は、元々は建築のスタディーから始まっています。周辺環境からの建築としての模型製作と、要求条件を設計の手がかりにしてきました。その2つが自分の建築創造の中心になっています。つまり、周辺環境と建築というのは、どう魅力的な環境を創れるかという事と、人間が使うということから建築創造できないかという事です。環境に関しては、建築というのは社会的な存在なので、例えプライベートな敷地に建てても建物の雰囲気というのは通り全体に広がる訳です。建築自体が環境的な存在だと言えます。また、周辺環境に合わせて造っても、大きさ、公共性ゆえに必ず新しい環境を造ってしまいます。建築をつくる事は環境を造ることにすごく近くて、そのような意味で環境というレベルで建築はどのような創造的な事が出来るかという事が一つの大きなテーマになっています。
それは元々はスタディーする際に、周辺模型を作ってその中に建物の配置を考えるという直接的なところから始まっている考え方です。もう一つは人間が使うという事です。
僕は使うという事から建築創造を発生させられないかと考えます。
例えばヨーロッパなどでは千年のスパンで建物が造られる。それはある一人の一生の為ではありません。何世代にも渡る大きなスパンについて造られます。歴史建築というのは人間のスパンでは造られて来なかった。人間の方が建物に合わせて使い方を変えてきました。例えばフィレンツェのウフィツィ美術館はもともと事務所建築でした。それが美術品を収容する倉庫となりその後美術館となった。人間が時代に合わせて使い方を変えてきたという歴史があります。
これに対して最近は、人間が使うということを建築の応用としてだけでなく創造的に出来ないかという事を課題としている流れがあります。自分もそのムーブメントの中にいて、建築創造を中心に人間と建築の関係、人間が使うということに合わせてそれに応えるような形で建築を創れないか。
逆に言えば、人間の生活は時代に応じて変わっていくものであり、生活を考えた住宅はその時代を描くものとなり、18世紀、19世紀、モダニズムやコルビジェなど、その時代の人間の価値観、素晴らしさを描いていました。それはその時代を良く考えてそれに合った建築を造ろうとした結果だと思います。そういう意味で人間の価値観、生活に合った建築を造ろうとしています。またそのような問題意識の中で美術館とか駅前広場とかのプロジェクトによって、すべてではありませんが、環境に調和する建築、人間が使う面白さが出ているような建築というのがテーマとなっています。
豊島(てしま)美術館
場所は瀬戸内海、直島の隣りの豊島という島の、海に面した小高い丘の上に建ちます。直島の現代美術展プロジェクトは最近、近隣の島にまたがる活動を始めていて、その一環として豊島に美術館を造ることになりました。
最初は各島にまたがるという構想は無かったので、直島のとある敷地に計画し、そのあと瀬戸内国際芸術祭が始まって、豊島に用地が変わって建設したものです。場所は都市部ではなく周りに田畑が広がる自然の美しいところです。そこに内藤礼さんという現代作家の作品を一点だけ永久展示するということでした。
空間の使い方としては展示替えしない展示空間というのは非常に珍しいことです。また、建築と作品を一体化させられないか、そういう部屋を一室造って欲しいというものでした。そのようなユニークな建築という事と、自然の中というシチュエーション、その二つが建築創造のキッカケになっていきました。
で、考えたのは水滴のような形。水は瀬戸内海の景観の重要な要素でもあると思いました。水滴という形は、より求心的なワンルーム、四角よりも一体性のある最小単位というか、これ以上分割できない単位というものを、自由曲線のようなカーブで作れないかということを思いました。また自由曲線は、周辺環境や敷地も直線ではないことを考えたときに、四角いオフィスビルのようなものでは違和感があって、自由なカーブであれば地形の起伏に良く合う建築が造れるのではないかと思うようになって、水滴という形にイメージを求めた訳です。
ダイナミックな地形の中でその形が出来ていく建築というものを考えました。断面的にもカーブしていて、より求心的な一つの空間、最小単位を示そうとしています。こういうワンルームを造るに当たって考えた結果、貝殻のようなコンクリートシェルを造ろうと思いました。しかしこれは三次曲面になっていてあらゆる面の曲率が違うわけです。その為ベニヤ板ではコストが高くなってしまいます。考えた結果ここでは、現場で出た土を持って形を作り型にしました。全く自由な形を安く作ることが出来ます。
屋根には穴があり、ガラスなど入れずに開いたままになっていて、雨風をそのまま導入する半屋外空間にしています。室内から見ると壁と天井の境が無いため穴が空中に浮かんでいるように見えます。また非常に大きな穴のために大きな開放性が生まれています。シェルという閉じた空間と穴による開いた空間とを同時に表現することを目指しています。穴越しには緑が見え、風や音、雨といった自然の要素が導入されて来ます。穴は全部で3つあり、その一つは側面にあるため、とても低い位置に開いていて、近づくと建物に居ながら体は外に出てしまいます。中に居ながら外に居るという想像的な何かを作ろうとしています。
サーぺンタインギャラリー
ロンドンの公園で夏季限定パビリオンとして2ヶ月間だけ設置された施設です。要望としては、人々を招き入れるオープンスペースであり、再建可能な構造とすることでした。
僕たちは、屋根が空中に浮いているような、壁が無い開放的なパビリオンを提案しました。平面的には四角ではなく緑を避けて空間をトレースした雲のような形の屋根としました。屋根だけというコンセプトのために梁を無くした為、スパンが小さくなり柱が多くなっています。屋根の高さは、通り側では6メートルほどあり、ギャラリー側では軒の高さまで下げています。床も敷地なりに高低差があり、屋根の一番低いところでは60センチほどになっていて、子供専用のような空間を作り出しています。
アーティストの住宅
敷地は両側に住宅の迫る細長い土地ですが、周りは日本らしいやわらかい雰囲気を伝える場所です。
ここでは周辺環境を感じる住宅を造ろうと考えました。開いた形で快適さを造ることを目指しました。
イメージとしては、庭のような雰囲気を持った感じを創れないかと。配置をバラバラにして隙間を作り、あちこちから明かりを取れるようにしました。天井を高くして、明かりが横からでなく自分を取り囲むような形にしたり、屋根が開いて半屋外のようにしたりしています。配置の隙間には坪庭が出来て、それを介して連続性を出すこともしています。透明性を重要なテーマにしていて、風呂場なども仕切らずにリビングのような快適さを作ろうとしています。間仕切も半透明な面にして透明感を無くさないようにしています。プライベートな境界を、建築としてではなく雰囲気で作ろうとしています。
ガーデン&ハウス
家という概念を払拭しようとしたプロジェクトです。
周辺は高層のオフィスビルやマンションの建ち並ぶ場所で、その隙間に4x7メートルほどの谷底のような敷地です。クライアントは仕事仲間である女性二人で、住宅でありオフィスであるような曖昧な、ある意味新しい暮らし方とも言えます。
壁を立てると狭くなってしまう為、壁の無い建物を考えました。部屋と庭をセットにして反復して積まれるというものになりました。壁はなくガラスだけで出来ていて、各階は機能は持っていますが用途を確定させず、繋がったような構造になっていて、非常に狭い部屋を狭く感じないような事を考えました。
北鎌倉の住宅
駅に面した70u程の敷地で、セットバックもあり、かつのレースのショップも併設するという、究極に密度の高い住宅です。
この小ささをどう面白く出来るか考えました。思い付いたのは、テーブルのようなストラクチャーがずれながら積まれていく形です。各階をずらす事で、上下をつなぐことが出来、各階ごとに内部と外部ができるというものになりました。1階には柱が乱立するが、レースの展示に壁を立てず柱を利用することで、見通しを確保しています。
トレド美術館ガラスパビリオン
ガラスの生産地であるため、無料提供されるガラスを使うことが条件としてありました。
ガラスの雰囲気を出し、コストを抑えるため、すべてをガラスで造ることにしました。敷地の樹木の枝との関係で平屋としました。内部は各室ごとにガラスで包む形としています。各室は空調条件が全く違うために、各室の間をダブルスキンとして空気ゾーンを設けて、透明性との両立を実現しています。
市民の財産としての意識も大きいのですが、道から内部が見られる構造は、そういった意識にも応える結果となっています。ガラスの仕切りは、工場室でのショーを隣室に作った客席からガラス越しに見るといった使われ方もされています。
ニューミュージアム
狭い敷地に窓の無いボリュームを積み上げることになるため、各階の寸法を変えてずらして積む事を考えました。
外観は、窓の無い不気味さを無くすため、ステンレスメッシュを張ったダブルレイヤーにすることを考えました。インダストリアルなイメージは工場の並ぶ通りのイメージとも合います。
内部では、1階は通りの延長のような場所になっていて、誰でも利用できるようになっています。各階をずらした外観は、複雑な斜線規制に対応するにも都合がよい形状となりました。
ローザンヌ連邦工科大学 学生会館
大学のセンター的な機能とするため、巨大なワンルーム形式を提案しました。
断面的にはランドスケープ的な空間となっていて、スイスの山々を連想するような形状となっています。トロッコ電車のような交通手段も用意されています。色々な用途を区切るために、中庭を造って各機能をやわらかく仕切っています。また、床に高低差を付けて立体に視線を区切ったり、多目的室の客席を斜面に配置して囲む形に利用しています。
これらのように、既存の風景や既存の人間が使うことを重視しながら、今までの建築には出来ないような、より創造的に発展できるようなものを目指しています。ありがとうございました。
(学生コンペ特別委員会 原稿起こし:太田悟市 編集責任者:成田完二)